弊社のクライアントさんからの相談で、
最も数多く寄せられるものといえば、
やはり『スタッフ』の問題です。

・スタッフの募集と採用
・スタッフの育成
・スタッフ間のトラブル
・スタッフとのコミュニケーション

こういった問題やトラブルに対する
対処法や予防法などについて、
さまざまなご相談をいただきます。

こういった問題やトラブルについて、
その原因をリサーチしていきますと、
多くの場合に共通している
ひとつの要因が浮かび上がってきます。

それは、
「院長とスタッフのギャップ」という
大前提を忘れてしまっていることです。

◆スタッフが大好きなこと

院長は院長という立場で
物事を考えます。

一方で、スタッフはスタッフの立場で
物事を考えています。

つまり、スタッフはスタッフなりの
感性や特性で、物事を考えながら、
仕事に取り組んでいるということです。

ですから、そういったスタッフの
感性や特性を理解した上での
コミュニケーションやマネジメントを
考えていかなければなりません。

院長がこれを理解していないと、
問題やトラブルは減っていきません。

たとえば、スタッフ同士というのは
『ココだけの話』という
秘密のオシャベリが大好きです。

ただ、それがお互いの恋バナなど、
たわいもない話であれば問題ありませんが、
仕事に関することになるとどうでしょう?

何か問題が起こった時に、
スタッフ同士が『ココだけの話』と
こっそり処理してしまう…

こういう『かばい合い』という
間違えた仲間意識が起きていたら、
医院にとって良いことでしょうか?

このような『かばい合い』には、
とても厄介な問題があります。

それは、かばい合いを通じて、
スタッフ同士が秘密を共有したという
【誤った連帯感】が生まれてしまうこと。

そして、その誤った連帯感が
他のスタッフにまで波及すると、
医院全体がおかしくなってしまう
ということもあります。

皮肉なことに、この問題というのは
医院内の連帯感が強い医院ほど、
その結びつきの強さがあだとなる
ケースが少なくありません。

日頃の業務という点で考えれば、
スタッフ同士の連帯感が強いほうが
チームワークが機能します。

ただ、そのチームワークも
間違った方向に作用してしまうと、
とんでもない方向に進むことが
あるので、注意が必要です。

◆患者さんからのクレームで気づく…

実際にどのような事例があったのか、
ひとつ紹介してみたいと思います。

これは、ある新人スタッフの話です。

採用して3ヶ月ほどが経ち、
スタッフ同士も仲良くいっているし、
新人も仕事の覚えが良く、院長も
順調であると安心していました。

しかし、ある患者さんからの
クレームがキッカケとなり、
院長も愕然としたのです。

患者さんからのクレームというのは、

「先生、あのスタッフさん(新人)の
対応は、良くないと思いますよ。

本人にも、他のスタッフさんにも
何度か意見を伝えさせてもらったけど、
全然改善しているようには見えません。

先生は、どのようなご指導を
なさっているのですか?」

というものでした。

この問題、あなたは
どこが最も重要な問題だと
思いますか?

まず、その患者さんから
『何度も』意見を言われていること。

しかも、本人だけでなく、
他のスタッフ(先輩スタッフ)にも
患者さんは伝えたと言っています。

そして、最も重大な問題は
患者さんが何度も意見を言っている
という事実について、患者さんから
言われるまで院長が知らなかったこと。

いったいなぜ、このようなことが
起こってしまったのでしょうか?

◆かばい合いという仲間意識

このトラブルでは、新人スタッフの
対応の悪さという問題があるのは
確かです。

でも、問題の本質は、
もっと複雑で根深いものです。

複雑で根深い理由というのは、

・新人スタッフと先輩スタッフの関係
・院長先生とスタッフの関係

という2つの観点から考えてみると、
よく分かるはずです。

多くの歯科医院では、
新人スタッフが入職すると
院長自身ではなく先輩スタッフが
新人の面倒を見ることが
多いと思います。

新人スタッフも先輩の期待に応えようと
一生懸命がんばりますし、
仕事もしっかり覚えていこうとします。

とは言っても、新人スタッフも人間です。

どれだけ頑張っていたとしても、
ミスを犯してしまうことはあるでしょう。

その新人スタッフにも決して悪気はなく、
そのミス自体もそう大きなものではなく、
本当に些細なミスでした。

新人スタッフも反省しているようなので、
そのミスで起こった問題に関しては、
先輩スタッフがフォローして解決しました。

このような話、歯科医院の新人教育では
よく起こりそうなことですよね。

ただ、「そんな時に先輩スタッフは、
どのように対処しているか?」というのが
とても重要な問題なのです。

これまでの私の経験から言うと、
その対処法は2つに分かれます。

ひとつは、どんな些細なミスであっても、
そのミスの内容やミスが起こった原因、
対処内容や新人への指導内容について、
細かく院長に報告するパターンです。

もうひとつは、ミスしたと言っても
そう大きな問題になっていないから
ということで、スタッフ間で
済ませてしまっているパターンです。

後者の場合、先輩から「今回のことは
みんなに内緒にしておいてあげるから、
次から気をつけてね」と新人に言うのは、
容易に予想ができます。

もちろん後者の対応は問題です。

しかしながら、後者の対応を選ぶ
先輩スタッフというのは、
ミスを起こしてしまったことは
悪いことなのに、なぜそのような
方法を選んでしまうのでしょうか?

◆スタッフの立場で抱えているもの

その理由は、一生懸命頑張っている
新人スタッフに対する『同情』と『不安』、
そして『トラブルを軽く見ていること』です。

『同情』に関しては、あなたも
分からないでもないでしょう。

けなげに頑張っている新人を見たら、
怒ってはかわいそうという想いは
誰にでもあるものです。

これは人情的な部分だと思います。

では、『不安』というのは、
どのようなものだと思いますか?

「ここで強く怒ってしまったら、
新人は辞めてしまうかもしれない…」

「先生に報告したら、新人スタッフが
辞めさせられてしまうのではないか…」

「指導役を任されている自分にも
監督責任を問われるのでは…」

指導役の先輩スタッフにも、
少なからずこのような『不安』があり、
報告を躊躇するケースがあります

特に、新人スタッフに強く注意をして
辞められてしまった経験がある先輩、
先生に報告することで新人スタッフが
辞めることになってしまった経験がある
先輩であれば、なおさらです。

それに、先生に報告して
ことを荒立てることよりも
「ここだけの話にしておくね!」と
対処したほうが、新人スタッフからの
信頼を得られると感じるのでしょう。

だって、新人スタッフからは
「先輩って優しいですね!
ありがとうございます!」と
感謝されるわけですから。

対処を通じて新人スタッフとの仲も
より深まるので、その選択のほうが
新人教育もやりやすくなります。

◆本質的な“負の連鎖”とは?

そして、先輩が院長に報告しない
最大の理由は、「このぐらいのことは」と
ミスを軽視しているからです。

この場合、「この程度なら先生に
報告しなくても良いか…」と
先輩が勝手に判断しています。

そして、その判断をしていることに、
罪の意識はありません。

このような先輩の間違った対処法、
そして、そこから生まれる新人と先輩の
誤った連帯感というのは、医院全体に
想像以上の影響を及ぼします。

なぜなら、そういう雰囲気というのは、
医院内にどんどん伝染していくからです。

次にミスがおこった時に、

「この前も秘密にしてくれたんだし、
今回も先生には内緒にしてください。」
と新人が先輩にお願いしだしたり、

「新人のことを大目に見ているわけだし、
私のことも秘密にしておいてよ」と
別のスタッフが言い出したり…

たった1人の新人をかばったことで、
他のスタッフのミスまでもかばい、
全てのミスを秘密にしないといけない
状況を生み出していきます。

こうなってしまうと、負の連鎖から
抜け出すのは大変です。

もしミスが起きた時に
院長へ報告しようものなら、
「告げ口をした裏切り者」
というレッテルを貼られます。

そして、スタッフの中では
自分の立場も危うくなってしまい、
孤立してしまうかもしれません。

そのような状況にあっても、
勇気をもって院長に報告できる
スタッフはどれほどいるでしょうか?

あなたの知らないところで、
このような【誤った連帯感】が
生まれてしまっては大変です。

◆誤った連帯感を生まないために

では、そのような誤った連帯感が
生まれてしまわないためには、
どうすれば良いのでしょうか?

そのために、次の3つのことを
実施することをお勧めします。

1)報告しやすい環境づくり

ミスを起こさないような緊張感は、
もちろん大切です。

ただ、人間は機械ではありませんので、
ミスをしてしまうこともあります。

ですから、ミスを起こさない以上に、
ミスが起こってしまったときに
そのミスを報告しやすい環境』を
つくることを重視するべきです。

繰り返しになりますが、
ミスは必ず起こりますので…

2)ミスに対する対処法づくり

さらに、『ミスが発生した場合の対処法』
について、院内で事前に決めてあると
良いでしょう。

では、どうすれば、
ミスが発生した場合の対処法を
事前に決められるのか?

これは、日頃から小さなミスを
報告し合うことが重要です。

ミスを報告し合うことによって、
ミスの事例集が出来上がります。

その対処法をまとめていけば、
【ミスの対処法マニュアル】が
出来上がっていきます。

対処法を考える前に、
何に対処すべきか?を
見つけることですね。

3)何が大事かを伝える

前述のとおり、
ミスは必ず発生するものです。

なので、うちの医院では
ミスが発生したことが問題ではなく、
ミスに対してどう対処するのかが大切
という考え方を伝え続けましょう

ミスを報告したら院長に怒られるかも…
という気持ちが、ミスを隠す環境を
作り出している可能性もあります。

「ミスすることは仕方ない。
だから、ミスをしてしまった後の
対処法を重視しよう!」

これは絶えず伝え続けることですし、
あなた自身の日頃の言動からも
表現し続けていくべきことです。

このことをスタッフに理解してもらい、
スタッフがミスを報告しやすい環境を
作っていきましょう。